Complete text -- "文化ボイコットについて思うこと"

12 July

文化ボイコットについて思うこと

先日、病院帰りにお茶の水の「ディスクユニオン」で、ムラヴィンスキー指揮/レニングラード・フィル演奏の2枚組ライヴCDを購入しました。ショスタコーヴィチの5番、プロコフィエフのロメオとジュリエット、チャイコフスキーの5番が収録曲です。

私は若い頃からムラヴィンスキーが好きで、既にこれらの曲のCDはいくつか持っているのですが、録音された日が違うので、また買ってしまいました。

結果、期待通りの良い演奏で、かつ音質も良かったので、このところ車移動の際は毎回聴いています。

さて、ロシアとウクライナが戦争状態になった2月下旬以降、日本では様々なロシア文化のボイコットがありました。中でも日本のオーケストラが、チャイコフスキーの作品を演奏プログラムから外すという出来事があったらしいのですが、それについてどのように思いますか?と、ある方からのご質問がありました。これは、私の制作や研究とロシア文化との関係性から、尋ねられたのだと思います。

正直、チャイコフスキーをやめたところで戦争は終わらないのに、なぜそういうことをするのか、私には理解に苦しむところがありますが、察するに「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということなのでしょう。

かつてソ連ではナチス・ドイツの時代でも、政治と文化を混同することはなく、ドイツ音楽であるバッハ、ベートーヴェン、加えてヒトラーのお気に入りの作曲家だったワーグナーの演奏を取りやめたりすることはなかったそうです。

しかし、我が国では、戦時中、ジャズを始め英米音楽は「敵性音楽」として演奏も聴くことも禁じられました。英語そのものも「敵性言語」として禁じられました。

つまり、我が国には歴史的に文化ボイコットの前例があり、そういう考えが今日まで根付いているということがわかります。

以下が私が答えた内容です。

------------

チャイコフスキーの音楽を聴いていると、その美しさに心が震えます。私は芸術に携わる者として、このような素晴らしい作品を作ったチャイコフスキーに対して畏敬の念を抱きます。

このような気持ちは「今回の戦争に対してどう思うか」とは、全く別のものだと思います。

もし「チャイコフスキーは(今回の戦争で)憎むべきロシアの作曲家だから、今年2月下旬以降は彼の音楽を聴くことで怒りを覚えるようになった」という人がいるとしたら(勿論そう考えること自体は自由なのですが)、それはその人の思想の問題であって、音楽そのものの問題ではない、ということです。

また、チャイコフスキーの作品と、今日のロシアの軍事行動には、そもそも何の関係もありませんから、彼の曲を演奏したり聴いたりすることで、ロシアの軍事行動を肯定することにはなりません。

私は、むしろ、こんな時だからこそ、このような素晴らしい作品に触れることで、戦争をしない方向に向かってほしいものだと思います。それこそが芸術の役割なのだと思います。

文化や芸術は、価値観の違う人たちを結びつける魔法のような存在です。チャイコフスキーをはじめ、ロシアの文化や芸術をボイコットしたがる人たちは、この芸術の魔法の力を恐れているのかもしれません。

むしろそのような行為をすることで、戦争がずっと続いて欲しいと願っている人たちに力を貸してしまっているように思えてなりません。

------------
20:41:30 | tshibata | |
Comments
コメントがありません
Add Comments
:

:

トラックバック
DISALLOWED (TrackBack)