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23 April

絵画の芸術的価値は造形性

音楽だったら、どんな立派なテーマや共感出来る物語があろうと、リズムやメロディー、ハーモニーがつまらないと繰り返し聴こうという気になりません。音楽性が低ければ惹かれないのです。

美術は違う、という人がいますが、私は同じだと思います。例えば絵画なら、やはり、惹きつけられる作品には、優れた造形性があります。色や形、構図、構成、タッチやマチエールなどです。

テーマやストーリーも重要な要素であると思いますが、そこが第一条件ではないと思うのです。もしそこが第一条件に出来る作家がいるとしたら、十分な造形力があるからこそでしょう。

例えば、ミケランジェロの「天地創造」と「最後の審判」。歴史に残る名作、システィーナ礼拝堂の壁画ですが、これはキリスト教的なテーマで描かれています。でも私などはこの世界観を詳しく知らないし、そもそも家の宗教は神道なので、その点に親近感はありません。

しかしこの作品は素晴らしいと思うのです。それぞれがどのような場面を描いたものであるかは良くわからないですが、この作品世界にグッと引き込まれていきます。

あらかじめ書きますが、キリスト教的世界観が素晴らしいか否かを論じているのではありません。ある人には素晴らしいものであり、また別の人にはどうでもよいものかもしれません。

しかし、そこに関してどのような価値観を持っていようとも、この作品の芸術的価値については、世界中のほとんどの人が認めざるを得ないのではないかと思います。これは造形的な問題だと思います。

ところで、素人が描いたヘタな絵でも素晴らしいものがある、という方がいらっしゃいます。私はカルチャースクールや絵画教室などで、多くの受講生を教えて来ましたので、それについては経験がありますから、その意見はある程度理解できます。

また、子どもが描いたらくがきのような絵でも、素晴らしいものがある、という人もいらっしゃいます。これも理解できます。

しかし、これらの事例を根拠にして「良い絵を描くのには技術や知識は必要ない、関係ない」ということは出来ません。ましてや「技術的に優れた作品は良い作品たり得ない」という意見には全く同意出来ません。

素人や子どもの絵が面白く、魅力的に感じることがあるのは確かです。でもいつもではありません。そういう時もある、ということにすぎません。

彼らには、絵画制作の基本的な技術がなく、専門的知識もありません。だからこそ、専門家が出来ないような面白さが見える時があるのです。また、その人の持つ性格的な部分や個性が、誤魔化しようもなく現れるのも魅力を感じる理由です。

それを理由に専門家が専門的な知識や技術を放棄したらどうなるでしょう?もしかしたら、ごく稀に面白いものが出来るかもしれません。

でも、残念ながら専門家は常に求められた高いクオリティで制作出来るからこそ専門家と言えるのです。子どもや素人にしか出来ない面白さは、子どもや素人に任せる方が良いのではないでしょうか。

03:48:00 | tshibata | |