Archive for July 2009

26 July

「幻滅した芸術家」

幻滅した芸術家

 或一群の芸術家は幻滅の世界に住してゐる。彼等は愛を信じない。良心なるものをも信じない。唯昔の苦行者のやうに無何有(むかう)の砂漠を家としてゐる。その点は成程気の毒かも知れない。しかし美しい蜃気楼は砂漠の天にのみ生ずるものである。百般の人事に幻滅した彼等も大抵芸術には幻滅してゐない。いや、芸術と云ひさへすれば、常人の知らない金色の夢は忽(たちま)ち空中に出現するのである。彼等も実は思ひの外、幸福な瞬間を持たぬ訳ではない。

(芥川龍之介「侏儒の言葉」より)
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この文章は、芥川龍之介「侏儒の言葉」の一節です。

20代の頃は、
「唯昔の苦行者のやうに無何有(むかう)の砂漠を家としてゐる」
という部分にリアリティを感じていました。
つまり、芸術家でいようとするなら、まるで砂漠の中で暮らすようなものだ、
ということ。そういう孤独感を強く感じていたのだと思います。

しかし、40代となった今、あらためてこの文章を読むと、
「しかし美しい蜃気楼は砂漠の天にのみ生ずるものである」
という部分にリアリティを感じるようになりました。

最近、複数の同年代の方とお話する機会があり、それぞれの抱える
悩みなどを聞かせて頂きました。
その時、
「自分には、お金も地位も配偶者も無いが、案外幸せなのかも知れない」
と思う瞬間がありました。

その理由は上記の通りです。
00:37:00 | tshibata | |