Archive for June 2019
21 June
『クリムト展 ウイーンと日本 1900』
6/5、生徒を引率して「クリムト展 ウイーンと日本 1900」を鑑賞しに東京都美術館に行って来ました。象徴主義的な物語性の強い内容でありながら、非常に高い造形性を持っていることがクリムトの代表的作品の特徴だと思います。
同時に、いわゆるデカダンス思想である、既成の価値観の否定、マジョリティな考え方に迎合しない姿勢がみられることも、私は好きなのですが、おそらくほとんどの人たちは気付いていないのではないかと思いました。それだけクリムトの高度な造形力に魅了されているのではないかと思います。
装飾的な色面処理と巧みな人体描写をマッチさせる構成は見事で、どちらも別の方法での色彩の視覚混合を成功させています。
私が制作者の立場から特に関心を持ったのは、形のキワの扱い方です。装飾的であったり、一見、平面性の強い色面的な部分と、比較的観察表現的な描画部分を構成したとき、お互いが乖離してしまう可能性があるのですが、それを巧みにひとつの画面に融合出来ているのは、ひとつは色彩のハーモニーによるもの、もうひとつはキワの扱い方にあると思います。いわゆるキアロスクーロ的な明暗のコントラストは弱めに作られた状態でありながら、トーンのコントロールとセザンヌのルフレの理論的なマッスのとらえ方で差をつけるべきところを描き分け、平面性の強い部分と乖離しないように微妙な立体感を出しているのですが、その形のキワを周囲と馴染ませるために、ハッチング、点描的なタッチ、線描、ウエット・イン・ウエット、という具合に様々な描画方法を駆使しているのです。
比較的時間をかけて描いていると思われる黄金様式期の作品と、比較的時間をかけずに描いていると思われる晩年の作品とでは、使われている描画方法に違いがありますが、描いているところ、即ち観ているポイントは同じであり、クリムトの確かな観察眼・デッサン力に敬服せざるを得ませんでした。
クリムトは、文学的内容に頼ることなく造形的方法論によって作品の価値を得ていると言えるでしょう。